脳の三層構造と四元素
脳の三層構造とは、1960年代に、アメリカの神経科学者、ポール・D・マクレーン (Paul D. MacLean) 博士によって、提唱された、脳の三位一体論 (Triune brain) がもとになっている考え方です。脳の発達段階とその構造を 1. 爬虫類脳 (脳幹) 2. 哺乳類脳 (大脳辺縁系) 3. 人間脳 (大脳新皮質) の、3つに分類します。この三位一体論は、神経科学の立場からは、異論が唱えられることも多いのですが、実質的な人間の心理を扱う上では、現実的な心理現象を、理解し説明しやすいモデルとして知られています。心理カウンセラーやセラピスト、その他人間の心理を扱う、マーケティングやコンサルタント、コーチングなど、幅広い分野で、多くの賛同をえている考え方です。
1. 爬虫類脳 (脳幹)
爬虫類脳は、生まれてから2歳くらいまでに完成します。生命維持のために生理的な機能や、飢え、攻撃、不安、性欲、父性、母性など、生死に直結する感覚を司ります。爬虫類脳が働くと、恐怖を逃れることに、衝動的に動作するようになります。縄張り意識や自己の優位性を誇示する心理が強くなるので、厳格で意固地になります。一方、自分自身という意識、アイデンティティ、自己肯定感の形成に影響を与えているのも爬虫類脳です。
2. 哺乳類脳 (大脳辺縁系)
哺乳類脳、隔壁、扁桃体、視床下部、海馬複合体、帯状皮質の集合体である大脳辺縁系で、2-10歳に発達します。愛情、喜び、怒り、嫌悪などの感情を司り、おもしろがったり、喜んだり、すねたり、拒否したりと、感情を豊かに表現します。感情を通じて、自己と他者とつながり、集合体への属性、親子関係、夫婦関係などを認識します。大脳辺縁系は、古い哺乳類の脳とも呼ばれ、犬や猫のように、しつけや訓練、反復による学習などもできるようになります。
3. 人間脳 (大脳新皮質)
人間脳は、人間など高等哺乳類に特有の脳で、大脳新皮質から成り、新しい哺乳類の脳とも呼ばれます。男性では10-29歳、女性では10-21歳にかけて発達し、言語、抽象、理論、合理性、創造、計画、倫理など、人間ならではの高度な知的活動を担っています。
このように、乳幼児から大人になるまで、脳は段階を経て発達していきます。2才ごろになって、哺乳類脳が発達してくると、イヤイヤ期がはじまり、感情をあらわにするようになり、10代になると、人間脳が発達してより高度な思考ができるようになると、反抗期がおとずれます。人間の成長にあわせて考えると、この3つのモデルは、理解しやすいと思います。
私たちが、所謂「頭がよい」「IQが高い」というのは、実は人間脳の働きだけを指す場合が多く、哺乳類脳や爬虫類脳の働きは考慮されません。しかし、実際に人間の言動に大きな影響を与えているのは、爬虫類であり、その次が哺乳類、そして最も影響力が弱いのが、人間脳です。
例えば、営業の現場では、爬虫類脳の働きを最も重視します。恐怖を与えて不安をあおると、営業の成果が飛躍的に上がることはよく知られています。人の上にたちたいという、優位性をアピールして、劣等感を刺激するというのも、営業の常套手段です。爬虫類脳に訴えかけると、即効性があり、決断がしやすい状況がつくられます。合理的思考で、長所と短所を比較している人は、なかなか決断してくれませんから、出来るだけ、人間脳に訴えかけないように、注意をはらいます。
次に重要なのが、哺乳類脳です。人の心に残る演説、スピーチをする人は、人々の感情に訴えかけます。感動与える映画や小説も、人々の感情をゆさぶるからこそ、記憶に残るし、作家や製作者の思いがより深く理解され、人々に支持されます。不特定多数の大衆に対して、人間脳で理論的に理解してもらおうと訴えかけても、なかなか相手にされません。そもそも興味をもってくれないし、見向きもされない場合も多いでしょう。感情的に良いと信じているものは、理論や合理性で否定されても、人々は動じないのです。
従って、人間の生活の質、すなわち幸福感をもたらすものを重要とするのであれば、爬虫類脳と哺乳類脳の仕組みをより理解することが、非常に重要です。とくに、2才までに発達する爬虫類脳は、人生の基盤を作ると言っても、過言ではありません。爬虫類脳が安定していると、自己肯定感が強く、生きる活力がみなぎります。一方、健全に機能していないと、孤独に陥りやすく、怒りっぽくなりがちで、身近な人との人間関係が安定しません。
同様に、哺乳類脳も爬虫類脳と同じくらい、人間の人格形成に重要です。乳児期や幼少期に、爬虫類脳や哺乳類脳を十分に使わないで、子どもが子どもとしての感情を抑え込んだり、自己肯定感が十分に形成されないと、アダルトチルドレンや愛着障害の原因になり、依存症に陥りやすく、劣等感が強いために、人に騙されやすくなったりします。
さて、このような脳の三層構造を西洋占星術の4元素に当てはめてみます。四元素は、火、水、風、地の4つの要素のことを指します。直感が鋭い人で、西洋占星術やタロットを少しでも学んだことがある人であれば、すぐにわかったと思いますが、脳の三層構造は、四元素とぴったりとあてはまります。
まず、爬虫類脳は火です。12星座で言えば、牡羊座、獅子座、射手座に該当し、タロットで言えば、棒 (ワンド) に当てはまります。火は生きる活力そのものをあらわすので、生命を維持するために必要なもの、人間の生死にかかわってくるもの、エネルギー、危機管理、モチベーション、欲望などを象徴します。火のエレメントは、支配と依存、勝ち負けなど、二元論的な結果をともなう行動をあらわします。
次に、哺乳類脳は水です。12星座で言えば、蟹座、蠍座、魚座に該当し、タロットで言えば、聖杯 (カップ) に当てはまります。生きる喜びや悲しみ、愛や憎しみをなど人間の感情を表します。自己と他者との関係性、パートナーシップ、家族関係、人との親密さも、水のエレメントです。感情は、人間の幸福感に直結するものです。自分自身が幸福感を感じられるかはもちろん、他者の感情を共感できるか、ということが、水のエレメントの真髄です。
そして、人間脳は風です。12星座で言えば、双子座、天秤座、水瓶座に該当し、タロットで言えば、剣 (ソード) に当てはまります。風はまさに、人間の思考あらわします。知識や情報を集めて、理解、分析します。抽象的な概念を構築し、それらを表現して、伝達します。風のエレメントは、親密な感情を共有しない、より多くの大衆へのコミットメントが重要になっていきます。
そして、最後に残った地のエレメントは、肉体と物質をあらわします。12星座で言えば、牡牛座、乙女座、山羊座に該当し、タロットで言えば、金貨 (コイン) に当てはまります。4つのエレメントうち、3つまでが人間の脳の働きや精神性、心理や思考にかかわるのに関して、地のエレメントだけは、物質的な価値観を象徴しています。
西洋社会における、このような四元素という考え方は、古代ギリシアまでさかのぼります。一方、マクレーン博士が脳の三位一体論を提唱したのは、1969年代になってからです。現代的な学術研究が行われる遙か昔から、古代の人々は、人間の本質に潜在的に気づいていたのではないかと、私は思っています。